シュナイトが昨日帰国した。前回も書いたように不安を抱えての滞在だったが無事終わり、しかも大きな成果を残すことができ、マエストロ自身も大変満足していた。次の来日は9月で、仙台フィルの客演と、神奈川フィルの定期、そして私のジャパンユースフィルハーモニックでブルックナーの7番を振ることになっている。
ここでやや宣伝臭くなるがシュナイト/神奈川フィルのCDについてお知らせする。「田園」のライナーにも書いたが、ミュージックスケイプから出しているこのシリーズはもともと製品化を意識したものではない。それ以前はアーカイブ用の録音すらしていなかった事に驚いた私と、「そろそろ記録を残してもいい時期だ」と思ったマエストロの意見が一致して録り始めたことによる。だから今でこそ長いステレオアームを堂々と三点吊りに設置しているが、初めの頃は細いケーブルの先にショップスの2つのマイクカプセルを目立たぬようにそっと吊り下げていただけだった。しかし最近になって正式に神奈川フィルと私の会社で包括的な録音契約を結んだので、今後はリリース予定なども前もってご案内できるようになった。リリースは基本的に隔月行う。出す曲目に関しては私のほうはマエストロから一任されているので、あとは神奈川フィル側の了解をもらえれば良いことになっている。リリースの順番は新旧織り交ぜて。たとえば今月は去年4月の「四季」だが、再来月の8月には先月の「画家マチス」とか。
何度でも書くが、いまシュナイトと神奈川フィルが達している音楽的充実度は、在京オケをはるかに凌駕している。この組み合わせをナマで聴いたことがない方々は、お気の毒だがクラシック音楽を楽しむ人生において大きな損失をされていると言わざるをえない。また演奏の些末な部分をあげつらって「他のオケのほうがもっと上手い」とのたまう人は、ご自身の音楽的教養と感性をまず疑ったほうがいい。
もっともライヴ録音の制約上、CDにはさまざまな限界がある。なにより演奏家と聴衆が時間を共有できるライヴと録音はまるで別物だ。シュナイトが振る演奏会には一種独特の雰囲気があるのだが、残念ながらそれはCDではわからない。その問題は私が一番わかっているつもりだ。しかしだからといってCDを出すことが無駄だということにはならないだろう。私たちにとってフルトヴェングラーの演奏は録音を通して聴くものでしかないわけだが、それはそれで充分な音楽体験となり得ているのだから。
慢性的な音楽業界不況の例にもれず、シュナイト/神奈川フィルのCDの販売状況は芳しいものではない。それは仕方のないことだ。しかしCDのラインナップが充実していくことでショップやネットでの存在感が増せば、神奈川フィルの知名度アップと演奏会での集客の向上に貢献できるはずだ。それが貴重な音楽的経験を与えてくれているマエストロと神奈川フィルに対する恩返しになれば、と思っている。