ピアノの現代奏法のひとつに「内部奏法」というものがあって、それはピアノの弦を直接指などではじいたり叩いたり引っ掻いたりするものなのだが、この内部奏法を許してくれるホールはほとんどない。たしかにスタインウェイのフルコンサートモデルは2,000万円もする高価な楽器だから、楽器が痛むのを彼らが恐れる気持ちもわからぬではない。しかしまともなピアニストであれば注意を払いながら弾くことはできる。ホールは貸すために運営されるべきであり、拒絶するために規則が決められるべきではない。
たとえばこんな条文であればホールも主催者も文句あるまい。
・内部奏法は調律師立ち会いのもと、ピアノに損傷を与えないと保証される場合のみ認める。調律師は終演後にピアノが正常な状態であることを確認する。万が一損傷が認められた場合は主催者が修繕費用を支払う。云々。
こんなことを考えたのは運営に関わっている武生国際音楽祭に先月行っていた時、ピアノを蓋を力任せにバンバン閉めたり鍵盤を叩いたり、というアグレッシヴな曲の演奏があっても、ホール関係者が誰一人として気にしていなかったことを知っているからだ。もちろんピアノはスタインウェイだ。舞台袖の我々のほうが「こんなの東京でやったら大変だよね」と冷や汗をかいていたくらいだったが、越前市文化センター側はあくまでも「壊れたら直せばいい」というスタンスだった。
そうなのだ、壊れたら直せばいいのだ。楽器は必ず壊れるし痛んでくる。普通に弾いていても何かの具合で高音の弦が切れることもある。いつ壊れるかなんて誰もわからない。逆に演奏会の時にピアノの弦が切れたらホール側はその損害を弁償するのだろうか。
最近はピアノの発表会のために短時間だけ(たとえば午前・午後・夜間の3区分のうち1区分だけ)借り、当然ピアノの調律時間もないしその料金ももったいないので調律なしにコンサートを開く人たちが多い。それこそピアノのメンテナンスのためには問題なのだが、それは野放し状態なのである。