シュナイトが神奈川フィルの音楽監督の任から退くことになって多くの人から事情を訊かれたのだが、私が何か書く筋合いのことではない。このコンビの演奏はまだ3回、シュナイトバッハ合唱団公演を入れれば4回残っている。何事にも始まりがあれば終わりがあるのだ。指揮者とオーケストラの関係の成熟の過程とそれによって生み出される奇跡的な創造の場に立ち会うことができたことを幸運に思うし、それを許可してくれた神奈川フィル事務局に感謝する。そして新しい常任指揮者のもとで神奈川フィルがさらに発展していくことを願うばかりである。
終わりといえば、私のジャパンアカデミーフィルハーモニックも、シュナイトとの最後の公演を10月に終えた。杉並公会堂にわざわざ岐阜から見えたある熱心なシュナイトファンの方からは「これまでのシュナイト氏のコンサートで最も感動した演奏会でした」というメールをいただいた。またシュナイトファンによるブログでも好意的に書かれていた。ご来場いただいた方々に心から感謝する。当事者である私は最近録音を聴き返しようやく落ち着いたという具合なのだが。
このオケはいわゆるプロではない。しかしアマオケとも違う。もともとはNPOを立ち上げた時ちょうど武生国際音楽祭がオーケストラの問題を抱えていて、それならばと芸大生中心に集めた学生オケで、その時はトレーニングオケのつもりだった。しかし都響のヴィオラ首席だった百武由紀女史や同じくヴィオラの中山良夫氏、そして神奈川フィル首席コントラバス奏者だった黒木岩寿氏といった超ベテラン演奏家もボランティア参加してくれるようになりそのコンセプトは発展することになった。また最初の年からのメンバーにもプロとして活動を始めている者が現れ始め、相変わらずオケには参加している。なので断じてアマオケではないのである。
ではどういう位置付けなのかというと難しい。Wikipediaにはマーラーユーゲント管弦楽団と同様の位置付けと記述があるが、毎年オーディションで選ばれたメンバーで構成する彼らとも実は違う。これからは現役のプロやOBの比率も増えるかもしれない。学生にとっては訓練の場であり、プロやOBにとっては音楽的な情熱を発散するオケになってくれればいいと思う。ベルリンでインバルなどのマネージャーをしているカーステン・ウィット氏にこの話をしたら「イベント的にやるもの以外では世界に類がないかも」と言っていた。そういうものなら東京にひとつぐらいあっても許されるだろう。
来年の5月1日の第2回定期演奏会からは、初代音楽監督となるゲルハルト・ボッセ氏の指揮となる。ボッセ先生は年明け1月23日に87歳を迎えられる。新任の音楽監督としては世界最高齢ではないだろうか。音楽監督をお任せしたからには先生が望むプログラムを100%実現するつもりだ。ボッセ先生は音楽への情熱と人間的な温かみで傍にいる人をすべてファンにしてしまう。戦後の名だたる巨匠たちと共演した名コンサートマスターだった先生が、若者たちにどんなハイドンやメンデルスゾーンを教えるのか楽しみである。